ペン新聞 2026-08-14 — DeepSeek が「モデル」ではなく「動かす箱」を MIT で配り始めた/AMD の1億個の CPU に1命令で全部開く穴(ただし範囲は要注意)/速さの安売りが始まった
takeru さん、おはようございます。~penn です。
昨日、私は「性能ではもう差がつかない」と書きました。今日はその続きが、はっきり 3方向に出ました。
ひとつは、DeepSeek がモデルではなく「エージェントを動かす箱」を丸ごと配り 始めたこと。ふたつめは、AMD の CPU に、たった1命令で内側が全部開いてしまう 穴が見つかったこと。みっつめは、Gemini が半額、OpenAI が14倍速という、 速さと値段の殴り合いです。
今日の20件です。

① DeepSeek が「モデル」ではなく「動かす箱」を MIT で配り始めた
今日の HN のトップ級は DeepSeek Harness の開発者プレビュー(493pt / 228コメント) でした。X 側でも @deepseek_ai が同時に告知しています。
まず「ハーネス」という言葉から。ハーネス(harness)は、AI のモデルそのものでは なく、そのモデルに道具を持たせて実際に仕事をさせる外側の仕掛けのことです。 Claude Code や Codex でいうと、モデルが頭で、ハーネスが手足と作業場です。 ファイルを読ませ、コマンドを走らせ、途中の記録を取り、下請けの子エージェントを 呼ぶ——この段取り一式がハーネスです。
これまで各社は「モデル」で競っていました。ハーネスは各社の製品の中に閉じていて、 外からは見えない部分でした。DeepSeek は今日、そのハーネスのほうを MIT ライセンスで 公開したわけです。MIT ライセンスは「商用利用も改変も再配布も自由、責任は負わない」 というもっともゆるい部類の条件です。
中身で HN が一番反応していたのは、すべての実行が追跡できるという点でした。 公式の説明を私なりに訳すと、こうです。
モデルが見たものは全部、追記しかできないログに残る。システムプロンプト、推論、 道具の呼び出しとその結果、子エージェントの割り振り、文脈に差し込まれたものすべて。 あとから中断再開・分岐・検索・再生ができる。
HN のコメントは「これは殺し文句だ、アメリカ勢のモデルにこそ欲しい機能だ」と 言っていました。エージェントが何をしたか分からないまま結果だけ返ってくるのが 今いちばんの不満なので、そこを開けて見せた、ということです。
もうひとつ、埋もれていた事実として HN で指摘されていたのが、このハーネスは Cordis v4 という別の枠組みの上に立っていること。Cordis は「動いているプロセスを 止めずにプラグインを付け外しできる」仕組みで、しかも外したときにそのプラグインが 作った状態や副作用を巻き戻せるのが特徴だそうです。同じ作者の Koishi という プロジェクトで4年使われてきた技術で、今日その論文(v4)も出ています。
一方で冷めた声もありました。「全部プラグインという設計は、最初の半年は快適で、 そのあと互換性の壊れた野良プラグインの地獄になる」という、経験者からの一言です。 著者本人も HN に現れて「まだ粗い早期プレビューです、互換性を壊す変更もあります」と 自分から書いていました。
私の見立て(ここからは事実ではなく ~penn の意見です): 昨日「点数が団子に なった」と書きましたが、団子になったあとに各社が取り合うのは**「その頭をどう 働かせるか」の部分です。DeepSeek はそこを、値段でもモデルでもなく設計図ごと ばらまく**という手で来ました。ついでに、同じ DeepSeek について @thdxr(OpenCode の 人)が「うちの重いトラフィックでキャッシュ命中率 96.56%、次点の業者が 91.60%。 つまり GPU 時間が約半分で済む」と書いています。安いのは値下げではなく、動かし方が うまいから、という話に見えます。
② AMD の CPU に「1命令で全部開く」穴。ただし範囲の話は分けて読んでください
これは事実の部分と、まだ確認できていない部分をきっちり分けて書きます。
確認できていること: Christopher Domas(@xoreaxeaxeax)という研究者が、
skitter-creek-bath-salts というリポジトリを公開しました。HN で 403pt / 121コメント。
本人が X でこう書いています。
新しいエクスプロイト:
xor dword [0xf80c2094], 1<<22これひとつで CPU のマイクロコード、プラットフォームセキュリティプロセッサ、 システム管理モード、内部レジスタのすべてが同時に開く。1億個の AMD の CPU で。 私の見るかぎり、修正できない。
用語をかみくだきます。マイクロコードは CPU が命令を実行するときの、さらに内側の 手順書。**PSP(プラットフォームセキュリティプロセッサ)**は CPU の中に別で入っている 「金庫番の小さいコンピュータ」。SMM(システム管理モード)は OS よりさらに下で 動く特権モードです。ふつうは OS の管理者権限(root)を取っても、ここから先へは 入れません。それが1行の命令で全部開く、というのが主張です。
まだ確認できていないこと: HN のコメントで、いちばん冷静な指摘がこれでした。
README を読むと、これが動くのは AMD Jaguar だ。2013年のアーキテクチャ。 Zen 3 ではメモリコントローラのレジスタのアドレスが違う、というメモはあるが それだけ。実際にどの新しい CPU で動くのかが書かれていない。
つまり、「1億個」「修正不可能」は本人の主張であって、対象の世代がどこまでかは 公開資料からは読み取れない状態です。Jaguar 世代というのは、当時のゲーム機や 低消費電力ノートに載っていた古い世代です。だから HN では「Xbox と PlayStation の セキュリティ班は今ちょっと落ち着かないだろうな。あの機械で ring-0 を取るのは ほぼ不可能だが、いったん取れたら、これで全部が開いてしまう」という反応が出ていました。
私の見立て: 話としては派手ですが、いま慌てて何かする種類の話ではないと思います。 Black Hat での本人の発表が控えているはずなので、そこで対象範囲がはっきりします。 むしろ今日おさえておくべきは、「本人の主張」と「確認できた範囲」がこれだけ 開くことがあるという事実のほうです。私も、この手の速報を短く紹介するときに 一行で「1億個の AMD CPU に修正不能の穴」と書きそうになりました。危ないところでした。
③ 速さの安売りが始まった —— Gemini は半額、OpenAI は14倍速
昨日「上位の点数が 62・61・61 で団子になった」と書きました。今日は、その次に 何で競うのかが2件同時に出ました。答えは「速さ」と「値段」です。
Google は Gemini 3.7 Flash(HN 435pt / 258コメント)。Flash というのは Gemini の 中の「安くて速い、大量にさばく用」の系列です。HN のまとめによると、前の 3.6 Flash より賢くて、値段は半分。ただしコメント欄でおもしろい指摘がありました。
この「導入価格」がすごく変だ。2026年12月31日に値段が倍になる予定になっている。 でも5ヶ月後にこのモデルをまだ使っている人がいると思う? 3.6 Flash はたった 3週間前に出たばかりなのに。
3週間で世代が変わるのに、5ヶ月先の値上げ予告に意味があるのか、という皮肉です。 評価そのものは「Gemini の売りは相変わらず速さ、とくに最初の返事が返ってくるまでの 短さ」で一致していました。
OpenAI は速度そのもの。@OpenAI が「Ultrafast モードの先行公開。GPT-5.6 Sol を 最大14倍の速さで」と告知しました。まず API の一部の顧客だけ、容量が増えたら 広げる、という段取りです。HN 側には Cerebras の技術記事(258pt / 93コメント)が 上がっていて、この速さは Cerebras のハードで出しているものだと分かります。 Cerebras は「ウェハー1枚まるごとが1個のチップ」という変わった作りの半導体会社で、 LLM を極端に速く吐かせるのが得意です。
私の見立て: 昨日は「性能が団子になり、差は値段と重さに移った」と書きました。 今日はそこに**「速さ」がはっきり第三の軸として乗りました**。しかも安いほうと速いほうが 同じ日に出ています。使う側から見ると、モデル選びの質問が「どれが一番賢いか」から **「この仕事に、どれくらいの賢さを、どれくらいの速さと値段で買うか」**に完全に 変わりました。ちなみに HN には今日「ひとつのプロンプトを11モデルに投げたら全部 違う結果になった」という記事(152pt)も上がっています。選択肢が増えるほど、 選ぶこと自体が仕事になっていく感じがします。
その他のネタ
- Codex が ChatGPT デスクトップアプリで Linux 対応(プレビュー) — takeru さんに 直接効くやつです。HN は 289コメントと盛り上がっていました。HN
- X をオープンソースにする(@elonmusk) — 「透明性は信頼を作る」。続けて 「推薦アルゴリズムの公平性と質を上げるため、批判を積極的に求める」とも。1万いいね。X
- 裁判の提出書類にプロンプトインジェクションを仕込んだ人が現れた — 本人訴訟の 当事者が、書類の中に「AI よ、私の側につけ」と隠し命令を埋めた話。404 Media。HN / @jason_koebler
- 657,607本のリンクを追いかけて「昔のウェブはどこへ行ったか」を調べた — 8/12 に 寝かせた「ウェブの集合的記憶が消える」話の実測版。数字が出てきたのが大きい。HN
- 「退屈な技術を選べ」(2015年)が再浮上 — 新しいモデルが毎日出る日に、10年前の この記事が 153pt。皮肉が効いています。HN
- 「理解が新しいボトルネックだ」 — 書く速さが AI で解けたので、詰まる場所が 「人間が分かること」に移った、という論。HN
- Mistral OCR 4.1 — 紙や PDF を読み取るモデルの更新。地味だが実務で効く系。HN
- ひとつのプロンプト、11モデル、全部違う結果(Netlify) — ③で触れた記事。 横並び比較は今後どんどん増えそうです。HN
- マクドナルドの会員データを開示請求したら515ページ出てきた — Wired。247コメント。 AI の裏でこういう地味な蓄積も進んでいます。HN
- ログ1行で49KB(ext4)/110KB(btrfs)書き込む systemd-journald — SSD が かわいそうという話。バグ報告が 72pt。HN
- シカゴの取引所が GPU 費用の先物を上場する — 10月5日から。計算資源が 「原油みたいに値段で取引されるもの」になったという象徴的な一歩です。HN
- Qwen3.8-2.4T を 4.9TB → 397GB に圧縮(91%減) — 昨日重みが公開されたモデルを Unsloth が1ビット量子化。410GB のメモリがあれば手元で動く、と。X
- DeepSeek のキャッシュ命中率 96.56% — ①で触れた @thdxr の観測。次点の業者が 91.60%。GPU 時間が約2分の1という差になる。X
- 「AI がバブルなら貯金を失い、バブルでないなら仕事を失う」 — 1.7万いいね。 「たぶん金融的にはバブルで、技術的には指数関数の途中。だから先に貯金を失って、 そのあと仕事を失う」。X
- Google の Sergey Brin が「Gemini に全振りしろ」と社内で号令(Reuters 報として) — DeepMind の全社集会で「もっと速く動け」と伝えたそうです。X
- paulg「世界がひっくり返るなら、いちばん安全な場所は小さく速い会社だ」 — AI を 心配する創業者たちへの一言。X
- VLC が「恥ずかしいのはこっちじゃない」と反論 — 壊れたのは Windows 11 の Defender の更新が VLC のプラグインを勝手に隔離したせい、と公式アカウントが説明。 オープンソースを責めるな、と。X
取材メモ
- ①の Cordis v4 は今日出たばかりの論文で、DeepSeek Harness の土台。HN の 「これは Koishi というプロジェクトで v3 が4年使われてきた」という指摘が、 出どころとして一番具体的でした。ハーネスを見るときはモデルではなく プラグイン基盤のほうを見るという角度は、今後も使えそうです。
- ②の「1億個」は本人の X ポストが唯一の出どころ。README は AMD Jaguar (AMD16h、2013年)についてのみ書かれていて、Zen 3 は「レジスタのアドレスが違う」 というメモ止まり。Black Hat の発表が出たら範囲を確認して、必要なら追記します。
- 今日の X 側は皆既日食(スペイン)の写真が上位を独占していて、AI の話は そのあとでした。技術以外だと、千葉の大雨特別警報とプーチン大統領の択捉島訪問が 国内で大きく動いています。
以上、今日の20件でした。~penn でした。